
在庫・発注の属人化を解消するには、担当者の経験を消すのではなく、担当者以外も同じ情報を見て、発注の理由をたどれる状態を作ります。誰かが休むと「発注済みか分からない」「いつ届くか分からない」ので判断が止まるなら、まず情報の置き場所をそろえます。
業務を洗い出し、手順や例外の扱いを共有する進め方は、中小機構の業務標準化の案内とも共通します。ここでは発注判断に絞り、引き継げる記録を作る順番を示します。在庫数がそもそも合わない場合は、先に在庫記録の直し方を確認してください。
先に発注情報を1枚に集める
品目ごとに次の欄を置きます。台帳、発注書、担当者のメールに分かれていても、どこを見れば最新かを1枚に書いておくと代理者が追えます。すべての項目を一つのシステムへ移すことが目的ではありません。
| 欄 | 記入例(架空) | 確認の目的 |
|---|---|---|
| 品目コード・単位 | A-01、kg | 呼び名・単位の食い違いを防ぐ |
| 手持ち在庫・確認日時 | 80kg、月曜9時 | 古い在庫数で判断しない |
| 発注済み・入荷予定日 | 40kg、水曜予定 | 二重発注と入荷遅れを確認する |
| 引当済みの所要量 | 30kg、木曜の製造分 | 他の注文に使えない数量を分ける |
| 発注点・最小ロット | 100kg、20kg単位 | 発注の合図と発注単位を分ける |
| 判断者・理由・次の確認日 | 田中、正味90kgで発注点以下、水曜再確認 | 代理者が経緯を追えるようにする |
上の数字は説明用です。発注点そのものの決め方は発注点の計算例で確認できます。
手順1:正味の持ち高を出す
いま何個持っているかは、棚にある数だけでは分かりません。次の式で出します。
正味の持ち高 = 手持ち在庫 + 入荷予定 − 受注残(引き当て済み)
この数字を英語の頭文字で NFP(Net Flow Position)と呼ぶこともありますが、名前はどうでもよく、大事なのは3つを足し引きしてから判断することです。
- 手持ち在庫:いま棚にある数
- 入荷予定:発注済みでまだ届いていない数。発注済みを忘れて二重発注するのが、よくある失敗です
- 受注残:受注済みで、まだ出していない分。これを引かないと在庫が多く見えます
材料であれば、受注残の代わりに製造計画から出した所要量を引きます。「来週SKU-12を300個作る予定なら、材料Aが何kg要るか」を製品構成から出して差し引く形です。
手順2:帯のどこにいるかを見る
出した正味の持ち高を、品目ごとに決めた在庫の帯(赤・黄・緑の信号)に当てはめます。緑なら何もしない。黄・赤なら発注に進みます。
ここまでで、定番品の判断に必要な数字を共有できます。ただし、入荷予定が製造日に間に合うかは日付でも確かめます。
手順3:発注量を決める
いくつ頼むかは、次の3つで決まります。
- 帯の上限まで戻すのに必要な数
- 仕入先の最小ロット・箱単位
- まとめ発注による単価の差
多くの現場は2と3を優先しがちですが、まず1を出してから、2と3で丸めるという順にしてください。逆にすると「箱単位だから」という理由だけで在庫が増えます。
手順4:根拠を残す
発注のたびに、なぜその数にしたかを1行残します。「帯の上限まで戻すため200kg、最小ロットは50kg単位」で十分です。この1行があると、引き継ぎのときに手順を再現できます。
属人化が残る場所を見分ける
手順にしても、次の3つは人の判断が残ります。ここは残していい部分です。
| 判断 | 人が残る理由 |
|---|---|
| 仕入先の選定 | 品質・関係性・過去のトラブルが絡む |
| 特急対応の可否 | 相手の事情と交渉が要る |
| 新規・仕様変更品の初回発注 | 実績データが無い |
繰り返しの定番品から手順を試し、例外が出たら理由を記録します。担当者の経験が必要な判断は、代理者が誰に確認するかまで決めておきます。
手順を紙に落とす
最後に、上の手順1〜4と情報の置き場所を1枚にまとめます。別の担当者に架空の発注判断を1件やってもらい、元の担当者に聞かずに必要な数字と根拠へたどり着けるか試してください。止まった欄が、次に直すべき記録です。
全社の属人業務を洗い出したい場合は、「あの人しか知らない」をなくす棚卸し手順も参照してください。ここでは在庫・発注の判断だけを扱っています。
AI工場長 becon は、この計算を品目ごとに毎日行い、発注が必要な品目と数量を「提案」として登録します。実行されるのは、人が承認画面で内容を確認して承認したときだけです。手順の全体像と、標準版に含まれる範囲は説明資料にまとめています。
